はじめに
私自身IoTについては「モノがインターネットにつながる」とだけなんとなく知っていたのですが、実際中身がどうなっているのかは知らずにモヤモヤしていました。
(というか難しそうなイメージが先行してしまってなかなか手をつけられませんでした。)
ということで今回IoTに関するAWSサービスについて調べてみて、それを1つの記事としてまとめてみました。
IoTと一口に言ってもさまざまな活用方法があるので、今回はスマートファクトリーに絞ってご紹介したいと思います。
「IoTに興味があるけど詳しくは知らない」という方や「スマートファクトリーに興味がある」と言った方に是非読んでいただけると幸いです。
スマートファクトリーとは
これまで製造業では機械化・電化・コンピューターによる自動化といった3つの大きな変革を経て進化し、現在ではインダストリー4.0と呼ばれる4つ目の変革を迎えています。
インダストリー4.0ではIoT技術を活用した製造プロセスのさらに高度な自動化とデジタル化が進められており、それによってスマートファクトリーと呼ばれる新しい生産モデルが実現されています。
スマートファクトリーとは、IoTを活用し高度な自動化がなされた生産性の高い工場を指します。
スマートファクトリーではIoTセンサーが生産ライン全体からリアルタイムにデータを収集し、それをクラウド上で分析・管理することで機器の異常検知や予防保守、生産計画の最適化を行います。
スマートファクトリー化には以下のメリットがあります。
コスト低減・生産時間の短縮ができる
生産管理システムを導入し、それらのデータから需給予測を実施することで生産に必要なリソースを最適化できます。
これにより余剰在庫や余剰人員を削減することができ、全体的なコストが低減します。
また生産システムによって生産状況をリアルタイムで監視・調整することで、ボトルネックを迅速に解消し生産プロセス全体の効率が向上するため、生産時間の短縮につながります。
品質を改善でき、不良品を減らせる
AIが生産過程のビッグデータを解析して、特定の要因(たとえば温度や湿度)によって不良品が増加することが判明した場合、その改善策を策定しやすくなります。
またその改善策が単純かつ定常的な作業である場合には、その作業自体をロボットで自動化できます。
これにより品質を改善し不良品を減らすだけでなく、1つ目のメリットであるコスト低減にもつながります。
多品種少量生産のオーダーに対応できる
衣料品や家具をはじめとする多品種少量生産のオーダーの場合、人間がその都度判断する生産体制ではミスの可能性が高まります。
柔軟な自動化システムを備えた生産システムを利用することで、各オーダーに応じた生産プロセスに迅速に切り替えることができます。
これにより人の手によるミスの可能性を減らし、正確かつ効率的に多様な製品を生産することが可能になります。
一方で以下の課題や留意点もあります。
初期投資と維持コストが高い
スマートファクトリーの導入には高度な自動化機器、センサー、IoTインフラストラクチャの導入など高額な初期投資が必要です。
またそれらのシステムの維持やアップデートにも継続的な投資が必要になります。
高度なセキュリティ対策が必要
スマートファクトリーでは多くのデバイスがネットワークに接続されるためサイバー攻撃のリスクが増大します。
データの盗難や不正アクセスを防ぐためには、デバイスの認証、データの暗号化、ネットワークの監視など高度なセキュリティ対策が必要になります。
高度技術に精通した人材の不足
スマートファクトリーの維持にはAI、IoT、データ解析などの分野に精通した人材が必要です。
しかしこれらのような高度な技術と専門知識を持った人材は現在不足している状況ですので、適切なトレーニングプログラムを設定して技術の普及と人材育成を推進することが重要になります。
スマートファクトリー化を進めることで得られる恩恵は大きいですが、導入・維持には相応のコストがかかります。
そのため段階的な導入を行ったり、特定のプロセスのみで試験的に運用してみたりして初期投資を抑える工夫が必要です。
AWSは従量課金性ですので、まずは小さくスタートして初期投資を抑え、必要に応じてスケールアップがすることが可能です。
AWSにおけるスマートファクトリーの構成例
今回はAWSが出しているクラウド構成と試算例を参考にしながら、スマートファクトリーの構成の全体像や使用するAWSサービスを見ていきたいと思います。
【画像の引用】 : IoT Smart Factoryのためのクラウド構成と料金試算例
スマートファクトリーを実現するAWSサービス
まずは上記の構成例で使用しているIoTサービスについてまとめました。
AWS IoT Greengrass
AWS IoT Greengrassは、AWSのIoT機能のエッジコンピューティング(エッジ(現場)にあるローカルデバイスに拡張する)を実現するサービスです。
たとえばスマートファクトリーでは膨大な数のIoTデバイス(センサー)から通信が発生するため、その通信量によりネットワーク帯域を圧迫してしまいます。
そこでエッジ側でのデータ処理を可能にし、必要な情報だけをクラウドに送信することで通信量が削減されます。
構成例では各工場内のIoTデバイスから200KBのデータを10秒間隔で収集しており、そのデータをLambdaで平均値や最大・最小値などの統計データに変換し、異常な値や設定された閾値を超えるデータだけをクラウドに送信します。
Lambdaで処理されたデータはAWS IoT Greengrassのメッセージング機能を通じて後続のAWS IoT CoreやAWS IoT Analyticsに送信します。
またLambdaでは異常を検知した場合にIoTデバイスを停止させたり、もしくは制御信号や調整指示を送るといったリアルタイム処理も行います。
たとえば温度が高すぎる場合にIoTデバイスを停止したり、冷却システムをオンにして温度調整を行ったりするなどの処理を行います。
AWS IoT Core
AWS IoT CoreはIoTデバイスとAWS各種サービスをつなげるIoTコントロールサービスです。
文字通りIoTソリューションのコア(中核)として機能するサービスになります。
IoTデバイスから送信されるデータをリアルタイムで受信し、それを迅速に処理して他のAWSサービスに転送します。
AWS IoT Coreは主にデータ収集とデバイス制御の用途で利用されます。
データ収集の用途では、リアルタイムで受信したデータをさまざまなAWSサービスに送信して加工および蓄積します。
たとえばデータをAWS Lambdaに送信することでデータの変換や異常検知などの処理をリアルタイムで実行できますし、AWS DynamoDBやAmazon S3にデータを蓄積することで即時にクエリを実行したり、長期的にデータを保存することが可能になります。
さらに加工・蓄積された膨大なデータをAmazon QuickSightやAWS IoT Analytics、Amazon SageMakerなどと連携することで、データの可視化や詳細な分析を実施して意思決定の参考にしたり、機械学習モデルを構築して将来の動向を予測したりできます。
デバイス制御の用途では、AWS IoT Coreのデバイスシャドウ機能でIoTデバイスの状態を常に把握し、電源のオンオフや詳細な設定値の変更をリモートで実行します。
このデバイスシャドウ機能はIoTデバイスの状態をクラウド上にも保存しており、IoTデバイスがオフラインの間も設定値の変更等をクラウド上に反映させ、オンラインになった際に同期を取ることが可能です。
構成例ではAWS IoT Coreはデータ収集の用途で使用されています。
AWS IoT Greengrassから送信されてきたデータをAWS IoT Coreで1時間間隔で収集し、SNSを介して外部サーバーに通知します。
AWS IoT Analytics
AWS IoT Analyticsは大量のIoTデータを分析できるマネージド型サービスです。
IoTデバイスから収集したデータを処理し、詳細な分析や長期的なトレンドの分析(たとえば誤差情報や送信元デバイスの状態遷移など)を行うことができます。
AWS IoT Analyticsで処理されたデータはAmazon SageMakerと連携させて将来の動向を予測したり、Amazon QuickSightと連携させてデータの傾向を直感的な視覚情報に変換して活用します。
またAmazon OpenSearch Serviceと連携し、データのインデックス作成と検索を行えるようにすることで、IoTデバイスで異常があった際のログ調査を迅速かつ効率的に行うことができます。
こう説明すると前述したAWS IoT Coreのデータ収集と似たような用途で使用しているように思えます。
どうせAmazon SageMakerやAmazon QuickSightにデータを連携するのならAWS IoT Coreでも良いのでは?と思うかもしれませんが、この2つのサービスには大きな違いがあります。
AWS IoT Coreはリアルタイムなデータ収集とデバイス制御が特徴です。
したがってIoTデバイスから送信されてきたデータを即座に処理し、迅速なアクションが求められるケースに最適です。
一方でAWS IoT Analyticsは、膨大なデータをバッチ処理して詳細な分析を行うために設計されているため、リアルタイム性が求められるケースではなく長期間なトレンド分析を行うケースに最適です。
とはいえ構成例では、AWS IoT CoreとAWS IoT Analyticsどちらも時間間隔を指定したバッチ処理の用途で使用されています。
AWS IoT Coreはリアルタイム性が特徴であるものの、バッチ処理の用途でも使用できる柔軟なサービスという認識で問題ないのではないでしょうか。
今回はスマートファクトリーがテーマですので、構成例に登場するサービスについてまとめましたが、AWSには他にもさまざまなIoTサービスが存在します。
【画像の引用】 : AWS IoT の仕組み - AWS IoT サービスの概要
またAWS公式ドキュメントで紹介されているIoT関連の構成例は他にもありますので、気になる方は以下をご確認ください。
IoTの活用事例
ここまでスマートファクトリーの全体像と使用されるAWSサービスを見てきましたが、実際これらはどのように活用されているのでしょうか。
AWS公式ドキュメントの活用事例を引用してご紹介します。
Pentair
Pentairはアメリカを拠点として水処理と流体管理ソリューションを提供する企業です。
住宅用から商業用、産業用、農業用まで、幅広い分野で製品を展開しており、とくにプールやスパ用の設備を効率的に運用するための高性能なポンプ、フィルター、ヒーター、自動制御システムなどを提供しています。
Pentairではビールのろ過システムにAWS IoTを活用してビールのろ過プロセスを改善し、パフォーマンスを10%向上させたそうです。
【参照】 : PentairはAWS IoTを使用してビールのろ過法を向上させ、パフォーマンスを10%引き上げることに成功
まとめ
スマートファクトリーは製造プロセスの自動化・効率化という大きなメリットをもたらす一方で、膨大な初期投資が必要だったり、何より高度技術者が不足しているといった課題を抱えています。
そのため、ひとえに「スマートファクトリーは良いものなのでどんどん推進しましょう」ではなく、現実的な視点でその導入や運用に伴う課題も慎重に考慮することが必要です。
AWSにはIoT系サービスに関連するハンズオンが用意されていますので、実際に手を動かしてもっと理解を深めたい方は以下のハンズオンを実施してみてください。
AWS IoT Greengrass 2.0 入門ハンズオン
AWS IoT Core 初級ハンズオン
AWS IoT Analytics ハンズオン
参考資料
近年注目されているスマートファクトリーとは? 7つの導入目的を紹介!
スマートファクトリーとは? メリット・デメリットや今後の展望など
AWS IoT Greengrass
AWS IoT Core
AWS IoT Analytics
IoT Smart Factoryのためのクラウド構成と料金試算例
AWS IoT の仕組み
PentairはAWS IoTを使用してビールのろ過法を向上させ、パフォーマンスを10%引き上げることに成功